肉用牛環境対応生産拡大基盤技術普及事業

肉用牛環境対応収益性向上管理技術普及事業

JRA日本中央競馬会 特別振興資金助成事業

飼養管理マニュアル

1.飼養管理-繁殖雌牛の管理


ポイント

経営を左右する1年1産を実現
繁殖ステージに合わせた適切な飼料給与、痩せさせない管理
発情観察・発見、適期授精、適切な分娩管理と記録

繁殖牛の栄養管理

成長、胎子の発育、泌乳量も考え、栄養度を確認しながら、胎子が急激に発育する妊娠後期や授乳期の増飼いなど痩せさせない管理と健康な産子を得るための管理を行います

母牛に与えた栄養は、生命の維持、胎子の発育、母牛の成長、産乳、栄養度(体脂肪の蓄積)、繁殖の順に配分されます。

胎子の大きさは飼料給与では調整できません。分娩前の低栄養は、分娩遅延、難産を招き、泌乳性、繁殖性 低下、産子の成長、免疫力(胸腺の発育)にも影響します。

授乳期は栄養要求量もピーク、低栄養は、乳質低下(子牛は下痢)、発情微弱、受胎率低下を招きます。

各地域の指導では、経産牛で粗飼料7㎏、配合を維持期1kg、妊娠末期2㎏、授乳期3㎏程度としている例が一般的ですが、栄養度を見ながら給与するのが基本です。

健康な産子も得るためにも、運動、削蹄を行い、獣医師にも相談しながら異常産・下痢症ワクチン、生菌剤投与、寄生虫駆除、ビタミン補給、カルシウム剤投与を行います。

初産牛では自らの発育のための栄養も必要

静岡県立農林環境専門職大学短期大学部
渡邉先生提供資料参考




■ 栄養管理、飼料設計の基本と栄養度、代謝プロファイルテストの活用

  • まず、清潔な水や固形塩が弱い牛でも飲みやすく、舐めやすくなっているか確認
  • 牛に必要な栄養を過不足なく給与し遺伝的能力を発揮させる牛が食べられる乾物量(皿の大きさ)を考えた上で飼料設計(盛り付け)を考える
  • 粗飼料、特に自給飼料はなるべく分析する栄養価は、草種だけでなく刈り取り時期、肥培管理、土壌により異なり、高すぎるケースがある
  • 飼料は定期的に量る(給与量、残飼)、記録することで飼養管理ができる
  • 未経産牛は成長途中で、妊娠末期は経産牛より要求量は多くなることもある
  • 経産牛は必要な栄養量が少ないため、粗飼料の栄養価が高すぎる場合もある
  • 分娩前、泌乳期はエネルギー不足になりやすく、環境、運動量の影響も受ける
  • 定期的に発育、太り具合(栄養度:BCS)を確認
  • 血液検査で各種成分値を見て飼養管理を改善する代謝プロファイルテストの活用も検討

■ 栄養度判定の実際

牛の栄養状態を観察しながら、飼料給与量を増減する必要があります。
客観的に栄養状態を判定する目安として、視診と触診によって脂肪の蓄積 程度を評価する「栄養度判定」を活用しましょう(図1-9)


岩手県肉用牛使用管理マニュアル(R4)から





分娩後の繁殖管理

適個体ごとの繁殖記録を確認し分娩後25日以降の朝夕の発情観察、適期授精を徹底します

早期の母子分離した場合だけでなく栄養管理ができていれば泌乳中でも発情は見られます。
ただし、子宮の回復には40日程度かかり、このころの発情を待って授精を行います。

発情期間は18時間ほど、行動変化は個体、環境でも異なります。
授精適期は発情開始6~9時間後から発情終息後6時間までの15時間程度。授精適期を逃さないためにも繁殖記録の確認と朝夕2回の観察が必要であり、飼養頭数が多い場合はICT機器の活用も有効です。

授精後は定期的に発情観察します。利用例が増えている超音波画像装置を用いれば授精後30日頃から妊娠鑑定は可能で、2回目発情予定以降(授精後40日前後)確認のための妊娠鑑定を行います。

分娩後30日後も悪露があったり、40日後も発情回帰しない場合は往診を依頼します。


1年1産させるための
肉用牛の繁殖スケジュール例

妊娠期間を290日とした場合

酪農学園における和牛の育成・繁殖・肥育の管理 酪農学園大堂地先生提供


育成期の繁殖向け雌牛の管理と初回授精

過肥とならないよう5~6か月齢程度まで濃厚飼料中心、その後徐々に良質粗飼料主体に給与し、体重300kg 体高120cm以上を目安に初回の授精を行います。

性成熟(初回発情)は10か月齢前後ですが、難産回避のため繁殖供用開始は13~15か月齢、体重300kg、体高120cm以上を目安に行います。
14か月齢になっても発情がない場合には獣医師に相談します。

初産時は発育途中であり難産によるトラブルも多くなります。
供用開始は月齢だけでなく十分な体格になってから行い、精液も産子は比較的小さいとされる種雄牛のものを選択します。
最近では生時体重や妊娠期間(在胎日数)のゲノミック育種価を示した精液も販売されています。


■ ICT機器を用いた発情発見

発情を発見する機器として、発情時に活動量、歩数が増加することに着目したネックカラータイプや歩数計タイプ、胃内カプセルタイプのセンサーで、パソコンやスマートフォンに発情を知らせるが機器が利用されてきています。
また、最近では放牧でも利用可能な、発情で最も特徴的なスタンディングの開始を十字部に装着したボタンセンサーで知らせるシステムも開発されています。


(参考)発情観察と敵期授精

1年1産を目指して! ~妊娠までの繁殖管理~

牛の妊娠期間は285日~290日、1年1産を目指すには、分娩後60~80日程度までの種付けが重症です。



発情観察の重要性(2)

表1 発情に伴って見られる行動とそのスコアの例

Van EerdenburgFJCM et al(1996)を改変


図3 発情期と非発情期に観察される行動

Heres L et al(2000)のデータをもとに作図
3週間の行動観察(毎日2回、各30分間)


ジェネティクス北海道 はんしょく学ノート 第22回「発情時に見られる行動」から


発情とは交尾の許容であり、通常、雄牛が存在しない牛群で は「他の雌牛に乗駕されてもじっと立っている乗駕許容(スタ ンディング)」を指すが、乗駕許容の発現に前後して色々な行動が見られるこれらの行動をスコア化(表1)、1日2~3回、各30分間の行 動観察を行い、累計スコアから発情牛を発見する試みがなされた。
しかし、発情牛に見られる行動の多くは非発情期の牛にも見られ(図3)、この行動スコアから発情牛を発見できる確率、精度(非発情牛と発情牛を見分ける確率)は低く、観察回数を増やすなどの対策が必要であるとしている。


黒毛和種繁殖雌牛に対する発情発見の方法と
分娩率との関連性の分析

表1 各農場における発情発見方法の実施手段と分娩率との関連性(N=272)

1 各方法に関する農場割合

2 平均士標準誤差

ab 異符号間に有意差あり(P<0.05)


表2 各農場における発情発見方法に組み合わせと
分娩率と関連性(N=272)

1 各組み合わせに関する農場割合

2 平均士標準誤差

ab 異符号間に有意差あり(P<0.05)


畜産技術2021年2月 宮崎大佐々木 羊介先生から


発情の観察を行う際には、より多くの手法を組み合わせて用いることで発情の見逃しを防ぐことができ、受胎率、そして分娩率の向上に繋がると考えられるとしている。


発法発見ICT機器

■ 歩数の増加を検知

ネックカラータイプ


歩数計タイプ


発情時に活動量、歩数が増加することに着目したネックカラータイプや歩数計タイプのものが主流・様々な機器が開発され、農林水産省のホームページスマート農業技術カタログ(畜産)でも紹介されている。


■ スタンディングを検知

ボタンセンサー装着の様子


試験2【結果】活動量による発情検知システムとの比較


同様の推移を示した


最近では、発情で最も特徴的なスタンディングの開始を十字部に装着したボタンセンサーで知らせる放牧でも利用可能な低コストのシステムも開発されている。


資料はいずれも「分娩間隔短縮を実現する新たな発情検知システムの開発」 北里大学鍋西先生提供から


妊娠鑑定の方法

NOSAI北海道 家畜技術情報「牛の妊娠鑑定について」から

1.妊娠鑑定の方法と特徴

1)ノンリターン法

授精後、発情が回帰しないことを確認する方法です。
牛に対するストレスが無く、最も簡便ですが、妊娠していても発情を見せる個体や、妊娠していなくても発情が回帰しない、もしくは見落とす可能性もあるため、下記の方法より精度は低くなります。

2)直腸検査法

獣医師による直腸検査によって妊娠の有無を確認する方法です。
授精後40日前後から実施可能で精度は高く、空胎であった場合その場でホルモン投与等の処置を行うことが可能です。

3)超音波検査法(エコー)

獣医師による超音波検査によって妊娠の有無を確認する方法です。授精後30日前後から実施可能で双子や胎児の心拍も確認できます。
また、直腸検査よりも卵巣や子宮の状態を正確に把握できるため、より適切な処置を行うことが可能です。

4)乳汁検査法

近年利用可能になった乳汁中の妊娠関連糖タンパク(PAGs)を検出する方法です。
授精後28日から実施可能で精度は高いのですが、授精後50~70日に行った場合は判定保留の割合が増加します。


2.妊娠鑑定の時期と主な目的および注意点

A 授精後28~40日(早期妊娠鑑定):空胎牛の早期摘発

B 授精後50~70日:受胎の確認

C 授精後120日~:流産していないかの確認


超音波検査やPAGs検査の普及により、現場でも早期妊娠鑑定を実施できるようになりましたが、この時期は流産の発生率が高いためその利用には注意が必要です。
なぜなら、海外では農場により差はありますが、上記Aの早期妊娠鑑定で妊娠していた牛の10~20%程度が、上記Bの2回目の妊娠鑑定までに流産したという調査結果があります。
早期妊娠鑑定時には受胎していたが、その後発情や流産が確認できず、分娩予定日近くに空胎が判明した、ということを防ぐために、再度の妊娠鑑定は必ず行う必要があります。早期妊娠鑑定の最大の目的は空胎牛を早期摘発し必要な処置を行うことです。


超音波診断装置で見た胚の発育状況

平成27年度埼玉県調査研究成績報告書「超音波診断装置を活用した牛の繁殖管理」から


図6 妊娠32日目


図7 妊娠40日目


妊娠診断初日(妊娠32日目)(図6)では、胚の存在が確認でき、8日後(妊娠40日目)(図7)では胚が大きくなっていると 共に、羊膜がはっきりと判別できた。